変わり始めたもの
「俺は何故こんなことをしたんだ?」
 深い闇の中シェゾは苦悩していた。太古の森で現代の五大賢者と謳われるアレン=テルの魔力を吸収してからというもの、誰からも魔力を奪っていなかったのだった。いやっ、実際は目ぼしい獲物を襲っても、途中で気が乗らなくなってきて、奪う気がなくなって、そのまま帰ってきていたのだった。
 今ではもっぱら力のある魔導具に宿る魔力を吸収して、自分の魔力を高めているのだった。
 今日だって、幼いながらも強大な魔力を持つ小娘を見つけたのだから、わざわざ自分の数あるアジトにつれて帰らずに、その場で魔力を奪えばいいだけなのだが、それができずに、こうして今は閉じ込めているのだった。
「俺は何がしたいんだ?」
 シェゾのその答えに答えるものは誰もいなかった。
 アレン=テルの魔力は膨大だった。そして、アレン=テルの知識もシェゾの知らないことも知っており、非常に役に立った。
 だがっ、あの時確かに、それ以外のものも同時にシェゾの中に流れ込んだのだった。アレン=テルの魔力を吸収する前のシェゾならば、何のためらいもなく、目的のためにありとあらゆる手段を講じていたのだが、今は手段を選ぶようになっていた。
「俺はどうしたんだ?」
 そして、アレン=テルを打ち破った夜から、夢を見ると、今まで自分が見たことのないような光景を見るのだった。それは、アレン=テルの記憶なのかもしれなかった。今までもこんなことはあったが、ここまで鮮明で長続きするのはシェゾとしても、初めての光景だった。
「くっ!またかっ…」
 その中でも、最も鮮明に写る光景は二つあった。一つは栗色の髪の少女に魔導を教えているところと、もう一つは太古の森で青い髪の美しい少女に何か言おうとしている場面であった。
「うおおおっ!!!」
 シェゾは闇の剣を抜くと、無造作に壁に切りつけたのだった。壁はまるでバターを切り取るかのようにやすやすと切り抜かれたのだった。

はあはあはあ…

 シェゾはまるで激しい運動でもしたかのように肩で呼吸していた。ただっ、闇の剣を一閃させただけであるのにだった。

 ば〜ん

 その時、扉のドアが開かれた。
「あっ…」
 そこにいたのは、自分が捕まえてきて閉じ込めておいた小娘であった。
「逃げ出してきたのか?」
 シェゾは闇の剣を構えて少女に襲い掛かったのだった。


 シェゾは負けた。実力や魔力や実戦経験で言えばシェゾに圧倒的に有利であったというのに、それでも、負けてしまったのだった。
「そういえば、夢に出てきた小娘に似ていたな」
 シェゾは体を起こしながら呟いたのだった。不思議と負けたというのに悔しくはなかった。むしろ、おかしな爽快感があったのだった。
「負けて喜ぶか」
 シェゾのその言葉はどこか自嘲めいていたが、その言葉は楽しそうであった。そして、また会えるという不確かな確証も抱いたのだった。

 そして、彼女アルルとシェゾは、シェゾの予感どおりその後何度も旅を重ねることになるのだった。
千里
2007年09月05日(水) 23時09分25秒 公開
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■作者からのメッセージ
次で最後の予定です。

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