レイニー・ブルー |
どうしてそんなことになったのかわからないまま、玄関の音を聞いたとき わけもなく冷たい悪寒が背中へ走る。 冷えた音が無常にも部屋に響き、それは続くことなく部屋の温度さえ下げた気がした。 ただ誰かの傍にいたいと思ったことを伝えるにはあまりにも残酷すぎる距離を この先どうして走りきればいい。 走りきることの終焉には何がある。 その問いが、彼女の手をつかむことができなかった理由にするのは逃避なのか。 「好き」 真っ直ぐと、視線を捉えられた瞬間、予想もしない勢いで彼女は自分に向かって飛び込んできた。 胸にぶつかった彼女の身体が予想以上に華奢で、よく生きていけるなと疑ったほどだ。 「何が言いたい」 わけもなく美しい世界なんて御免だ。 生きる理由がすべからく希薄なまま。だから欲しいものを目指すことで渇きを飢えに変えた。 歩いていくことで生きる。次を手にすることで、道を作る。 だから今、止まることが苦しい。 止まってはいけない、散らさなければいけない、選択肢などない。 彼女に手を伸ばせば間違いなく、この道に座り込むことになることをシェゾは知っていた。 ほしいものがなくなったとき、それは自身の死を意味するのだから。 自分の意志が満たされたとき、夢が叶えば、願いが祈りを越えたら 黒い闇に飲み込まれる。 自分をここまで生かし続けたのはその所為だ。 闇に飲み込まれて、俺が、悪になるのにこの意識はただ邪魔になる。 俺はあいつになってしまう。・・・だから。 「だから、好き」 「は、それで俺がお前を・・・」 見下したように目線をアルルにやれば、彼女は困ったことにぴくりとも動かず シェゾは戸惑うしかなかった。 「きみがボクから逃げているのは知っているよ、ぼくだって本当は逃げたい。 背中がね、世界でつぶされるのが怖いの。ねぇ、そうでしょ。 ぼくたちはいつだって、追いかけられてる。がんじがらめだ」 「・・・何?」 「ぼくのせかいが消える瞬間が近づいてるから、ぼくは此処にいる。 だって、もう逃げることに意味がなくなっちゃったんだ。ぼくは先に、消えるけど」 爪が、シェゾの背中にくいこむように力がこめられる。 彼は痛みに気がつかない。彼女も、気がつかない。 「こわくてこわくて気が狂いそうだよ!ぼくはぼくを殺そうとしてるんだ。 ぼくたちは少しでも道をはずそうとすると自滅させるようにしてるの! みてよ、ぼくは知らない間にこんなにも傷をおってる!かさぶたが体中を覆うんだ!」 腕をさしだされ、白い腕を点検するようにシェゾは優しく触れた。 傷どころか、まるで生まれたときから変わっていない気さえした。 「みてよ、シェゾ。雨が、水溜りが赤いの。雨が、血のように降るよ。 どうしちゃったんだろうね、せかいが、変だよ。シェゾはわかるよね? ルルーもウィッチもドラコも、そんなことないって嗤うの。嗤うの!嗤うんだ!!」 彼女はシェゾにもたれかかり、微笑んだ。 シェゾは突き放すことなく、寄り添う。 「怖いよぉ・・・。怖いよ・・・。早く、終わらせてよ、シェゾ。 ぼくを殺して、力を奪ってよ。だから・・・」 怖い怖いと繰り返し呟いて、微笑む彼女に手をかけようとしたが まったくその手に力がこもらないことに気がつくとやがて諦めて考えるのをやめた。 「怖がっているのは俺のほうだ」 「言ってる意味がわかんない・・・」 「わからなくていい、ただ」 消えることが怖いのか、自分がヤツになりかわることが怖いのか それとも純粋に失うことを恐れているのか、目のまえの少女を。 だんだんと曖昧になっていく、意味はやがて意味を失うだろう。 「今だけは傍にいる」 好きだといった一瞬なんか忘れ、アルルは満足そうに微笑んだ。 ずたずたに裂かれた精神を抱えたまま、俺の傍で眠る。比べてしまえば、たった一瞬だけ。 「雨、青くなるといいな。そうすれば、キレイでしょ?」 アルルが無邪気に微笑んだ。 シェゾはそうだな、と言って、額に唇を落とす。 卑怯でもいい。 一瞬だけ道にへたりこんだ自分に、そう言い訳をする。 それでも自分の為に、俺は、そのひとことを伝えることはないのだろうが。 |
SAKU
2007年09月03日(月) 01時01分59秒 公開 ■この作品の著作権はSAKUさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.1 藤宮 評価:100点 ■2007-09-07 03:25:59 ID:LO7b7bN2nf6 | |||||
へたれ万歳、うっとおしいまでに悩み続ける魔導のみなさまの存在理由(レゾンテートル)に万歳。 シェゾよりも弱々しく彼にすがるあるるんに萌えるのは、私の精神がおかしいからでしょうか。 |
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総レス数 1 合計 100点 |
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