貴方のためにこの言葉を… |
「歌…?」 一人の年若い男が深く、命あふれる森の中を歩いていた。 森は人がほとんど足を踏み入れることはなかった。そのために、森の息吹を感じることができたのだった。それは優しくも荒々しいものだった。あらゆる命を育むと同時に、全ての命を帰らせるという矛盾した二つの性質を併せ持つ、神話に聞いた神々の森を男に想像させるのだった。 男の名はアレンという、今年魔導の学校を卒業した駆け出しの魔導師だった。彼はこの近くにある村の依頼によってこの森、太古の森と呼ばれる森にやってきたのだった。 太古の森…、それは神話の時代より存在したといわれる場所であった。太古の獣のほとんどは其の姿を消し、人間もこの森に出入りし始めた頃から、それは現れたのだった。 アレンの目的は人間が森に立ち入ることを拒むそれを倒すことだった。 樹齢数千年を数えるであろう古木でアレンが休んでいたときに、それは聞こえてきたのだった。 「誰が歌ってるんだ?」 その歌はそよ風に乗って森の奥から響いてくるのだった。優しく、心中に澄み渡るが、どこか悲しさを秘めた美しい歌声だった。其の歌声にアレンは心の穢れを祓われるような気がしたのだった。 もっと聞きたい…、アレンはいてもたってもいられなくなり、一気に駆け出したのだった。何も考えず、ただっ、アレンは声の元に走ったのだった。 そうやって、無我夢中になって走ってそこにたどり着いたのだった。 美しい、それしかいえなかった。そこには一つの湖があった。その湖は澄み渡っているだけではなかった。空を色をそのまま湖に写し取ったかのように、美しい青色であった。木々の緑がさらにその青を際立たせているのだった。 そして、湖の中で歌を歌っている少女がいたのだった。 その少女は海の色で染め上げたかのように美しい髪を持ち、その肌は白磁のごとく白く絹のように肌理の細かい肌をしているのだった。笑えばかわいらしい顔は戸惑いで泣きそうになってしまっていた。彼女はうろこさかなびとのようだったが、アレンにはそんなことはどうでもよかった。 アレンは「大丈夫だよ」といおうとしたが、突然感じた気配に驚きファイヤーの呪文を唱えてしまったのだった。 アレンの呪文は少女のすぐ横を通って、それに当たったのだった。 「ぐおおおおおっ!!!」 それは、この森に住まう太古の森の獣の一つであった。大きな白銀の狼だった。その姿は気高く美しかった。神だといわれても納得してしまうほどであった。 アレンと白銀の狼との戦いはまさしく死闘だった。白銀の狼の毛皮は並みの刃や呪文は受け付けないのであった。 そして、アレンは白銀の狼の口の中に炎系統の呪文を叩きつけることによってようやく倒せたのだった。 アレンは疲れきった体に鞭打って、少女を探したのだった。一言彼女に謝りたいからであった。 あの時彼女は悲しそうな顔をしているからだった。謝って、アレンは友達になりたかったのだった。しかし、いくら探しても少女はアレンの前に姿を見せなかったのだった。 それからアレンは白銀の狼の毛皮を依頼を完遂した証拠として村人に渡し、自分はその村に年数回訪れるようになったのだった。 理由は簡単だった。彼女に一言ごめんと謝って、もう一度彼女の歌を聞きたかったからであった。 だから、彼は待っているのだった、彼女に会えるときを… |
千里
2007年07月04日(水) 22時46分33秒 公開 ■この作品の著作権は千里さんにあります。無断転載は禁止です。 |
|
この作品の感想をお寄せください。 | |||||
---|---|---|---|---|---|
No.1 華車 荵 評価:100点 ■2007-07-06 02:52:18 ID:BH4G.dZ0sJM | |||||
あまりにも反応が遅すぎる為に二つの小説に渡って初めましてな華車荵ですm(__)m 以後、お見知りおきをば……;; お早い執筆ご苦労さまです(^-^) 前回に引き続き淡々とした語りでとても良かったと思います。 セリリとアレンさんのすれ違いが何だか物悲しいですね。 彼の行動に傷ついたセリリ。しかし彼に悪意は無かったのだから悲劇です。 いつか再会できたら良いな、と心から思います。 ご投稿ありがとうございましたm(__)m |
|||||
総レス数 1 合計 100点 |
E-Mail(任意) | |
メッセージ | |
評価(必須) | 削除用パス(必須) Cookie |