猛暑の惨劇(下1)
「・・・・・今、何日だ・・・?」

ここは暗い洞窟の中。疲れ切ったように呟いた男の

手の中の光によって、洞窟の壁は蒼く光り輝いている。

「・・・もうすぐだ・・・・時間がない・・・」

季節は夏を迎えたと言うのに、洞窟の空気はひんやりとしていた。

「・・・・・・アルル・・・・」

男はそう呟くと、その場に座り込んでしまった。



ここはとある喫茶店。三人の少女たちが全席満員のため

外のオープンテラス席に座っている。パラソルが付いているものの、
熱の暑さが否応なしに三人を襲う。

「ふぇ〜。暑いよぉ・・・」

そう呟いてテーブルにパタンとうつ伏せになったのは

亜麻色の髪と金茶の瞳を持つ魔導士見習いの少女。

眉間にしわを寄せ、手には食べかけのアイスが握られている。

「うるさいわねぇ。暑いっていったら余計に暑くなるわよ・・・・・」

そう言って同じくテーブルにうつ伏せになったのは、美しいサファイアの髪と抜群のプロポーション、

魔導師見習いの少女よりいくらか大人な印象を受ける女性。

そう、言わずと知れたアルル・ナジャとルルーである。

「お二人とも見苦しいですわ。このくらいの暑さでへばっていては

またあの時のように太陽が大きくなったら耐えられませんわよ。」

そういって金の髪を揺らしたのは、傍から見てもいかにも魔女という服装をした少女、ウィッチ。

二人に比べるとずいぶんけろっとしている。

「うぅ〜。暑くないのぉ、ウィッチ」

「そうよ。一番暑苦しい格好してるくせして・・・」

恨みがましい目を向けるアルルとルルー。

「あなた方と違って私は、優秀な魔女ですもの。このくらい簡単ですわ。」

どうやらウィッチは、自分に暑さの耐性が上がる魔法をかけているようだった。

「理不尽だわぁ〜」

「おーっほっほっほ!」

「まあまあ。」

ルルーが唸り、ウィッチが高笑い。アルルは二人をなだめた。

「そういえばアルルさんの誕生日はもうすぐですわね。」

「あら、そうねぇ。祝ってやらないこともなくはないわよ。」

「う・・ん・・・。」

「どうかしました?元気がないようですけど。」

「そうよ。いっつも無駄にうるさいあんたらしくないわねぇ。」

「あはは、無駄になんてひどいなぁ。」

ルルーの毒舌に苦笑するアルル。

「お優しいサタン様があんたのためにわざわざパーティを

開いてくれるんだからシャキっと元気出しなさいよ!」

「そうですわ。もう少し元気出してくださいな。」

「うん。ありがと!」

そう言いながらも、アルルはまだ少し寂しそうな微笑を残したままだった。

しばらく談笑してから、

「 僕、家にカー君置いてきちゃったしご飯作んなきゃいけないから先、帰るね。」

「あら、もうそんな時間ですの?」

「うーん、うちの場合カー君が良く食べるから早いうちに用意しなきゃいけないから・・・。」

「そう。ま、早くいつものあんたに戻りなさいよ!じゃないとこっちの調子が狂っちゃうんだから!」

「そうですわ。元気出してくださいな。」

「・・・僕、元気だよー。だから大丈夫だって!じゃあね!」



アルルが去った後、ルルーとウィッチは残って話していた。

「・・・・・最近アルル、妙に元気ないと思わない?」

「そうですわね。いつものアルルさんらしさがありませんわ。」

「何であんなにしょぼくれてんのかしら。」

少し心配そうなルルーは、原因を突き止めようと考えている。

なんだかんだ言ってもやっぱり気にしているのだなぁ、とウィッチは思う。

「この暑さで普段から憂鬱そうでしたものね。他に何かあって

ダブルでダメージを受けてるのではありませんこと?」

魔王が迫ってくるのを入れればトリプルだが・・・、ということはあえて言わない。

「そうねぇ・・・。あの娘はかなりお人好しでお節介したがるから、

何か他人のことでも気にするのよね。」

「確かにアルルさんですから、誰かに何かを頼まれて

悩んでいるのかもしれませんね。」

「もしくは・・・。」

「もしくは?」

「恋愛関係かしら。」

でもあの娘のことだから・・・とぶつぶつ独り言を言うさまを見て、

妹の心配をする姉のようだとウィッチは可笑しく思った。

そんな視線に気づいたのか、

「な、何よ。私は別にアルルが見てて危なっかしくでハラハラするから・・・!」

少し顔を赤くして、照れ隠しにまくし立てるルルー。

「はいはい。わかってますわ。」

「だから・・・!」

平和な午後が過ぎてゆく。



「はぁ〜。どうしたものか・・・。」

一方こちらは魔王の城。

しかし、そうとは思いがたい光景が広がっている。

目の前にはたくさんのカーバンクル人形と腕を組みながらうろうろする

緑の長髪の男が一人。その頭からは二本の立派な角が生えている。

「やはりあいつも招いた方が良いのだろうか。」

いや、我が妃に悪い虫を近寄らせるわけには・・・。

そんなことを言いながらまたうろうろしだすこの男は、魔王サタン。

10万飛んで25歳というお年寄・・・否、いいお年の自称ナイスガイ。

「でもあいつがいると我が妃も喜ぶし・・・。いやしかし・・・・・。」

悩むこと十数分。

「だああぁ!もうめんどくさい!!招待してあいつが

来なければ来ない!来たら来ただ!どんとこい!!」

最後はもうわけが分からない気もするが。

ともかくサタンは何かを決断したようで、

また別なことを考え始める。

こちらも平和な午後が過ぎてゆく。



これから起こる騒動を知らずに・・・。



マリン
2007年06月17日(日) 00時18分34秒 公開
■この作品の著作権はマリンさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
スイマセン。上・中・下に分けようとしたら収まりませんでした(汗
というわけで下1とさせていただきます。

この作品の感想をお寄せください。
No.2  楠  評価:100点  ■2007-06-27 14:12:10  ID:MPg28rkw2gU
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初めまして、楠と申しますv
上・中・下1と、全て見させて頂きました!
どの話も楽しくて、ついつい夢中になってました(^▽^;)

続きが気になりますw楽しみにしてますね♪
それでは、執筆頑張ってください(*_ _)
No.1  華車 荵  評価:100点  ■2007-06-18 04:57:26  ID:4.bsxnRyjIY
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 こんばんは、マリンさん。
 執筆ご苦労さまです(^-^)

 収まるだろう。と思って書いてたら、意外と長くなってしまった。なんてこと良くありますよね(笑)
 下1ですか。下は何話まであるのかとわくわくしつつですw
 アルルの誕生日、一体どうなる事やら……v
 『彼』の行動も必見ですね!(*^m^*)
 そんな所でなにしとるん??って感じですが、アルルの為とあらば……w(何)

 しかしサタン様、ご乱心ですか?(爆

 続き、楽しみにしてますね(*^-^)
総レス数 2  合計 200

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