聖なる夜に |
「〜〜♪」 冷やりとした冷たい風は楽しげな歌を乗せて、深い森の中を奔る。 季節はすっかり冬。そろそろ初雪が降っても可笑しくなく、 「今年は降るだろうか…?」などと考えながら彼は静かに彼女の歌を聴く。 草や木の密やかなざわめきと供に風が闇を運ぶがそれは不快な物でもなければ 恐怖の対象にもなりえないもの。 特に彼にとってはこんな闇ほど穏やかな物は無い。 何故なら彼は……。 「…珍しいな…お前がこんな歌を歌うとは…」 静かに放たれた声。漆黒の髪が揺れ、木に凭れかかったまま彼は晴れた夜空の様な瞳を彼女に向ける。 空は厚い雲に覆われ一筋の光すら届かないにも関わらず、彼の瞳は確実に優しい月の光に包まれたような 彼女の姿を捉える。 「あら、だって今日はクリスマスよ?こんなお祭りの日くらいは楽しまなきゃ」 緩くウェーブの掛かった金色が舞い、ゆったりとした白いローブをはためかせ彼女が笑う。 額に埋め込まれた宝石でさえ楽しげに紅く煌いた。 普段彼女はそういうお気楽な歌を歌う事は無く。 ソレは時に静かな…時に激しいものでありながら、深い哀しみを秘めたものであった。 しかし、今日のような祭りの夜などは彼女にとっては別らしく、 相変わらずの祭り好きと脳天気さは養父似か?などと少々呆れながらもそれを 快く思ってしまうのだから不思議な物だ。 「今年は降るかしら?」 木々の間から覗く空を仰ぎ、静かな期待を込めて問う彼女。彼は「さぁな…」と曖昧な返事を返しただけだった。 それを気にした風も無く彼女は今は黒っぽく見える金褐色の瞳を漆黒の彼に向ける。再び風が闇を揺らし彼女の白いローブがはためく。 「ねぇ、カイマート。アルルとシェゾどうしてるかしら?」 紡ぎ出されたのは二人の「主」の名。 邪魔をしてはならない。という想いも有り二人して抜け出して来たものの、やはりそれは気になるらしい。 先ほどの二人の様子からすると心配は要らないとも思うのだが。 「あと、他の皆も…」 じっと見つめる瞳、その一言で彼女の言わんとしている事が理解できた。溜息を吐き凭れていた木から離れる。 彼の、深い闇の色をした鎧が密かに金属質な音を立て漆黒のマントがはためく。 「…気になるのであれば見てくるか…?グラーヌス…」 真の名を呼ばれ、自分の要望が受け入れられたことに悦びと感謝の意味も込めて彼女…カーバンクルは 満面の微笑みを返した。 森の中を街への入り口を背に北に進んだ所に開けた場所がある。 其処は小高い丘のようになっており、一本の樹齢何百年にも及びそうな立派な桜の木が佇んでいるのだが、 その向こう側は大地が切り取られてたような断崖絶壁になっており滅多に人が立ち寄る事はない。 しかし、そこから見事な地平線が一望できる為、彼らの「主」達はそれを気に入り桜の木の下を待ち合わせの場所 としているようだ。 別にどちらかがそう提案したわけではなく、そこで偶然出逢う内に「ここに来れば逢える」というジンクスの様な 物が二人の間で出来上がったらしい。 そして今日も桜の木の下で他愛もない会話繰り広げている主たちを二人の「相棒」たちは静かに見守る。 自分たちの存在に気付かれぬように。 「楽しそうね…二人とも」 「うむ…」 隣で嬉しそうに微笑む彼女に彼は静かに頷く。 「また喧嘩してるんじゃないかって思ったけど…」 「それは無かろう…先刻から感じていたが主の『闇』が穏やかだった…。 とは言ったものの…アルルが来るまでは多少乱れがあったが…な……全く…」 彼の言う「闇」とは魔力の事。それが彼の『主』の…そして彼の魔力のカタチ。 魔力は精神と深く関係する。それが乱れていたという事はつまり…。 呆れたように言う彼を見て彼女はくすくすと笑う。 彼にとってその乱れはノロケ話を聞く様な物だったのだろうから。 「それにしては嬉しそうじゃない?ご主人様思いね、貴方は…」 「…そうか…?」 「えぇ、でもそれ聴いて安心したわ…。やっぱりシェゾもアルルの事……」 「………」 優しげな褐色の金は淡い切なさを込めて二人を見つめる。笑い声が止み、一瞬とも永遠とも思える静寂。 ゆっくりと二つの影が重なる。 「…行きましょうか?」 これ以上は見ていられないわとでも言う様にほんのりと頬を紅く染め、苦笑しながら彼女が言う。 二人から視線を逸らすように彼女を見た彼は短く彼女の意見に同意し、踵を返すと 彼女ももう一度だけ二人を振り返りその後を追った。 温かき光と優しき闇 光は真に闇を知り 闇は真に光を知らん 傷付け 癒しながらも交ろうとせん魂 彼の宿世 切り開きしは誰ぞ… 「あら?あれってDシェゾとDアルルじゃない?」 「…ん?」 二人の存在に最初に気付いたのは彼女の方。 森の、ほぼ中心部に位置する場所。其処には周りの木々よりも一際高い樹があり、 そこから街を見下ろす事が出来る。二人のドッペルゲンガーはまさにその樹の上…太い枝に腰を降ろし 街を眺めているようだった。 「今日はてっきり家に篭ってるのかと思ってたけど…」 「…此処なら騒がしくないしな…」 「えぇ、でもあそこからなら街のイルミネーションがよく見えそうね。……後で街に行ってみる?」 「…我は構わぬが…」 彼の言葉に彼女はじゃぁ決定ねと嬉しそうに微笑む。その微笑みにふっと笑みを返し、再びドッペルたちに 視線を移す。 「あら…Dシェゾったらまたあんなにくっ付いて…」 「…全く…飽きん奴だな…」 彼が苦笑を漏らし、彼女がくすくすと笑う。呆れに含まれた微かな優しさ。それが彼女には嬉しかった。 あの二人の想いはそれなりに理解していると思う。 何時互いが居なくなってしまうか、何時離れなくてはならなくなるか…その不安は彼女達も経験してきた事。 ただ、彼女達の時は無限と言えるほど存在し、あの二人の時には限りがあるということ。 だからこそ“今”を楽しく生きようとするのだろう。二人で…。 だからDシェゾも何度殴られようとも魔法を喰らおうともDアルルから離れないし、だからDアルルも くっつかれるのを拒みながらも完全にはDシェゾを拒むような事はしないのだろう。 だからこういう光景はいつもの事で…。 「あ、殴られた…」 「…しかも落ちたぞ…?樹から…(汗)」 「あぁっ!く、首が変な方向に…っ!?」 「……ま、まぁ時空の水晶なら大丈夫であろう……行くか…」 「…え、えぇ…そうね…(汗)」 いつもの事なのだが見てはいけないような衝動に駆られるその光景を「見ていないことにしよう。」 と暗黙に約束を交わし、二人は慌てるDアルルの声を背にその場を立ち去る事にしたのだった。 人で無き者 人なれざる者 宿世開きて我道を行かん 迷いし魂 いざないしは彼の者なり 魂無き者に永遠の愛を… 広場は意外にも静かだ。毎年この時期になるとクリスマス・ツリーのオブジェが飾られ、若いカップルで賑わう筈なのだが、 今年は人足は街のほうに向いているらしく、オブジェの周りでさえカップルが数組居る程度だった。 彼と彼女が見つけたのは周りのカップルに交じってツリーを眺める二人の少年と少女。 「…勇者と魔女か…」 「そうみたいね。あの二人も今日は逢えたんだ…」 いつも逢えるわけではない。いつも一緒に居られるわけではない。 だから共に歩めるこの瞬間を大切にしようと…。 一つのロングマフラーを二人で巻き、手を繋いだまま時折雪を待つかのように空を仰いでは笑い合う二人の姿に 笑みが毀れた。きっと二人の間では暖かな、穏やかな時が流れている事だろう。 ネオンの光が二人を照らしだすその向こう…。 「あ、あれは…っ!?」 「……!!?」 それに気付いたのは同時。 闇の中に浮かび上がる様な白い影。懐かしいとすら形容できるほど久しいその姿。 樹の陰に佇みラグナスとウィッチを見守るそれは、まるで雪の精の様に儚げで美しい。 しかし、彼と彼女は知っているのだ。それが如何に強くも悲しき存在かを。 ふっと射る様な金と視線がぶつかり、闇の中に純白が舞う。 「あ…っ!」 「…グラーヌス!」 走り出そうとした彼女の腕を掴み行動を制した。 頭を振り、行ってはならぬと主張する彼。彼女の瞳が哀しげに揺れる。 「どうして!カイ、追いかけなきゃ!!」 「…追い掛けた所で話など聴いてはくれまい…それに…」 「……今逢った所で…何を話せば良いか解らぬ…」 「…でも…貴方達もう何千年も……」 何も言えなくなってしまった。遠くを見つめるような漆黒の瞳がいつにも増して 悲しく苦しげに変わっていたから。 何も出来ない。無力感に心を乱されながらも彼の視線を追う。 そこにはもう、彼女の姿は無かった。 狂いし歯車にて出会いと別れを繰り返せし者達 現世に出会いて 宿世に惑わされん 閉ざされし扉 開きしは解けし光と闇 アストロよ…彼の間に有りしも それらを繋げぬ者に情けを… 暫くの間ラグナスとウィッチを見届けた後、二人は街に出たのだが、 路行く人の視線を感じ、何処か落ち着かない。 「……何か見られているような気がするのは気の所為か…?」 「そうかしら?気のせいじゃない?」 「………」 一瞬で流された。 一見彼らの風貌は、どこぞの姫君が従者の騎士殿を引き連れてお忍びでやって来たという風にも見え、 実際周りから好奇の目で見られているのだが…。彼女が鈍感過ぎるのか、彼が気にしすぎているのか。 まさか周りの者達もこの二人が随時食料を求め街を荒らし回っている小動物と某変態魔導師が振り回す 曰く付きの剣などとは知る由もないだろう。 その正体を知っているのは彼と彼女と…そして…。 「……あ」 「………」 人込みに紛れて前方に見えたその姿に、無言ですぐさま踵を返しその場を立ち去ろうとした彼の襟首を 後ろ手に引っ掴み、彼女は彼の行動を制する。 「逃げちゃダメよ?カイマート?」 「…我は奴が苦手だ……」 「大丈夫よ、ルルーも一緒みたいだし」 にっこり笑った彼女の言葉に、溜息を吐き冷や汗を掻きながらも彼は彼女に従う。 が、半分は自棄である。 「あっ!カーバンクルちゃ……」 どうやらあちらもこっちに気が付いたらしく、その名を呼ぼうとするも、腕にしがみ付いたまま 不思議そうに見上げる碧髪の少女に気付き、サタンはこほんとわざとらしく咳払いをするとすたすたと 彼らの前に進み出た。 その姿が遠近法により大きさを増す毎に、彼の疲れも増す。 「あら、サタン様…お知り合いですか?」 「…うむ……」 ルルーの問に角を隠した緑髪の魔王は頷き、彼を睨みつける。 最初に口を開いたのは彼女の方。 「お久しぶりです。魔王様」 にっこりと笑いそう言うと彼女は肘でつんつんと彼の脇腹を突っ突く。 溜息と供に紡がれた科白は 「…久方振りですな魔王殿。暫くお姿がお見えになられなかったので…御無事でなにより…」 棒読み。 しかもその言葉には「まだくたばっていなかったようだな」というようなニュアンスまで 含まれており、サタンの肩が微かに震える。 どうやら彼の言葉は魔王の怒りを借ったらしい。いや、彼には何を言われても不愉快に思えて くるのだろう、この魔王は…。 「ほぉ〜、私は透明になった覚えはないが?お主…目が悪くなったのではないか?闇騎士殿」 「…変な呼び名を付けるのは止めてもらえぬか…?魔の王よ…」 額に青筋を浮かべ嫌味ったらしく言い放つサタンと如何にも嫌そうにそれに答える彼。 睨みあう二人を横目に彼女はルルーににっこりと微笑んだ。 「ごめんなさいね、これが魔界流の挨拶なのよ」 勿論そんな事はないのだが、その言葉、その微笑にルルーはすっかり騙されてしまう。 「あら、あなたたち魔界から?」 「えぇ、新婚旅行なの」 「「は!?」」 コロコロと笑う彼女の言葉に素っ頓狂な声を上げる二人。 なにやら喚いている彼らを無視して彼女達の話は進んでいく。 「新婚!?良いわね〜」 「あら、貴方達だってもう直ぐでしょ?式はいつ頃?此処でやるの?それとも魔界?」 「え?私が?誰と?」 「それは勿論、魔王様とよ」 一瞬その場の空気が固まる。その瞬間ルルーの頭の中では鐘が鳴り響いたに 違いない。 「わ、私が…サタン様と!?」 「えぇ、魔界ではその話で持ちきりよ?凄く美人で強い女性がサタン様の妃になられるって… お幸せにね」 「そ、そんな…私はまだサタン様とは……きゃぁ〜〜vv」 顔を真っ赤に染め、黄色い声を出しつつ妄想突入。こうなっては横で何を話そうとも聴こえまい。 それを横目で確認し、サタンは溜息と供にもう一度彼を睨みつける。 「……で、何故お前がカーバンクルちゃんと一緒におるのだ…闇の剣よ?」 「…お主には関係なかろう…」 不機嫌そうにそっぽを向く彼。その瞬間サタンの堪忍袋の尾はぷちっという音を立てて切断された。 「関係あるわっ!!仮にも私はカーバンクルちゃんの親だぞ!?…全く性懲りもなくカーバンクルちゃんに ちょっかい出しおって…大体お前ら闇の魔導師などと呼ばれる輩はいつもいつも私の邪魔を……」 くどくどくどくど…。 これだからコイツには遭いたくない。と言うように溜息を吐く彼に、彼女は苦笑を漏らし、 一歩前に進み出る。 「お養父様…あまりカイを困らせないで下さいません?それに、カイが私にちょっかいを 出しているのではなく、私が勝手に…」 「あぁ…可哀想なカーバンクルちゃん…こいつに何か言われたのか?まさか弱みでも握られているのか? こんな奴の事は私に任せて、戻って来てはくれんか?」 「…一寸待て…我は何も…」 「貴様はだぁっとれっ!!」 全く話を聴こうとしない養父に対し、彼女は溜息と共に少しだけ声色を強くし言い放つ。 「お言葉ですがお父様。私は家に戻るつもりはないわ。確かに家に帰れば美味しいものいっぱい食べられるけど… 自由がないもの…。もう嫌なの!私は鳥篭の鳥じゃない!いつまでもお父様の掌の上で囀ってるわけにはいかないの! 自由になりたいのよ……だから…もう、お父様も娘離れしてください…」 「か、カーバンクルちゃん…」 「云いたいのはそれだけです。ルルー様、そろそろ行きませんと…サタン様がお寂しがりになりますわ」 驚愕の表情を浮かべるサタンにそれだけを伝えると、彼女はルルーにその視線を向け優しく呼びかける。 その声にはっとしたように気付き、「えぇ、そうね」と少し慌てたように言うルルーに微笑みを浮かべた。 「それでは、私達はこれで…。行きましょ?カイ…」 「まっ、待つのだ!カーバン…グラーヌス!!」 一礼し彼の手を取り歩み出す彼女。すれ違い様にその名を呼ばれるが彼女は振り返らない…。 ただ、彼女の紡ぐ詩だけが聴こえた。 孤高の王 孤高なる女王 夜の闇 月の光に導かれ出逢いし時 輪廻に基づく物語動き出さん 彼の者ら 弧ざる者… 「無理をするな…グラーヌス…」 半歩後ろに彼の声を聞き、彼女は彼の腕を掴んだまま立ち止まり降り返る。 「無理?何の事?」 「…サタンの事だ…」 少し強めな彼の声に彼女は少しの間だけ目を伏せ彼を見つめた。 「あれは本心よ、カイマート。もう何百年も昔から抱いていた本心。私は自由になりたかった。 それが出来なかったのはお父様が独りになってしまうから…。 でも今はルルーが居る…。もう独りじゃないもの、お父様は私から離れるべきなのよ。 大丈夫…お父様なら解ってくれるわ…」 何処か遠くを見つめるような瞳。決して嫌いな訳ではないのだ。 寧ろ彼女は養父を愛しているし感謝もしている。記憶を無くした自分を拾い、育ててくれた事。 いつも傍に置き、様々な人との出逢いをくれた事。そして…自分を愛してくれたこと。 それはきっと彼も同じ。あの人が居なければ彼と出逢うこともなかったのだろうし、 それがなければ彼女はとっくに『愛』を『憎しみ』に変えていただろう。 “彼女”の様に…。 「寂しくはないのか…?」 「平気よ?あなたが居るもの…」 だが、養父が本当に傍に居て欲しい人を見つけたように、彼女も傍に居たい人、傍に居て欲しい人を 見つけた。 あの時に誓ったのだ。例え遠く離れていようとも、今目の前に居るこの人を愛し続けようと。 同じような哀しみを…、何かを失う辛さ苦しさ、それを知って尚全てを憎む事ができない切なさを 抱いたこの優しい“闇”を…。 遠き過去に想いを馳せる。 『…我にも妹が居た…』 聖なる夜。古き郷、降りしきる冷たい雨の中嘗ては姉妹だった二つの宝石を抱き泣き崩れる彼女。 その背後に立ちゆっくりと言葉を紡ぐ彼。聞こえてきたのは遥か遠い物語。 まだ世界が一つだった頃。何かを愛したいが故に…何かを守りたいが故に永遠に争わ なくてはならなくなった悲しき運命の物語。 何故話す気になったのかは解らない。ただ、『似ている』…そう思った。 何かを得る為に何かを失い、その元凶を知って尚それらを憎む事が出来ずに愛し続ける。 そういうところが二人、良く似ていた。 初めて打ち明けられた哀しみ。自分を犠牲にしてまでも愛する者達を守ろうとした彼の強さ。 戦いの路しか選べなかった弱さ。それ故の孤独…。 静かに聴く彼女。冷たい雨に熱い涙をなじませて。 紡がれた約束…。 それからだ、彼女が彼と居るようになったのは…。 「私が居るから…ね?」 「…どうした…?急に…」 身を寄せ微笑む彼女に少し驚いたように問う彼。 ただ思い出しただけだ。遠き日に抱いた想いを。 新たに誓っただけだ。この星に。世界に。この聖なる夜に…。 「ん〜…そうね。強いて言うなら…『貴方が好き』って事かしら?」 「…なんだそれは…」 優しい苦笑を投げかける彼。その表情がとても好きなのだ。 一頻り笑った彼女は腕を絡ませ甘える様に。 「今日は一緒にいましょう?時が赦す限り…」 「…戻らなくて良いのか…?」 「戻ったって邪魔になるだけよ。…それに…今日は特別!」 満面の微笑み。 そう、今日は特別。彼が全てを打ち明け、彼女が彼を知った。 彼女が想いを打ち明け、彼が彼女を受け入れた。 彼の温もりが…彼女の温もりだけが暖かかった 奇跡の夜に…。 だからこの日だけは…特別…。 ふわりと純白の粒が舞い、空を仰ぎ彼女が歓喜の声を上げる。 「ねぇ、見てカイマート!雪よ!」 「うむ…そうだな…グラーヌス…」 嬉しそうに、鈴の様に笑う。 漆黒の空に舞う純白…。それは何処か彼と“彼女”を想い起こさせ、嬉しくもあったが とても哀しかった。 同じように空を仰ぐ彼を見つめ。 『貴方達もきっと…いつか解り合える…』 「…何か言ったか…?」 「いいえ、何でもないわ。メリークリスマス、カイマート…」 「嗚呼…メリークリスマス…グラーヌス…」 微笑んで、そっと寄り添って、確かめ合うように。 傷の舐め合いだと言われても構わない。 彼の苦しみを知っているのは彼女だけ。彼女の哀しみを知っているのは彼だけ。 『私が傍に居てあげる……』 それは聖なる夜に交わした約束。 哀しい想いを込めて。 「繋いであげる」と希望を込めて。 光と闇の間に在りし者…月は願う。 いつか光と闇が再び解りあう事…。 遠き過去の『楽園』のように…。 |
華車 荵
2005年01月05日(水) 00時32分33秒 公開 ■この作品の著作権は華車 荵さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.5 美佳 評価:100点 ■2011-09-09 22:16 ID:NGqbCBAIRYQ | |||||
グラカイグラカイ!グラカイ良いよね〜♪ グラカイ小説少ないけど・・・。でもでもグラカイ大好き! 色んなCPも登場してまさに俺得! 私もこんな小説作りたいな・・・ しのは私の目標! これからもがんばって! 次回は何作るのかな〜楽しみ楽しみ♪ 新作出来たら見に来るよ〜★ |
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No.4 こぱら 評価:100点 ■2005-01-11 23:14:13 ID:p6W5XktwsDM | |||||
素敵クリスマス小説をありがとうございますv グラーヌス&カイマート小説!!と喜びながら拝見させてもらいました。 グラーヌスとカイマートの関係が大好きです。何と言うか大人な関係♪彼らが幸せになれますように…。勿論ほかのメンバーも。 そしておもしろいところがあるのもまたシノの小説の魅力vDアルルDシェゾのやりとりとサタンとカイマートのやりとりに笑わせてもらいました。それもやはりシリアス部分が書けているからだと。上手いなぁ〜。 ラスラグに繋がる話と聞いてわくわくしながら読んでたけど…気になるフレーズがいっぱい出てきて…。期待が高まります! そして、何気にカップリング勢ぞろいなのがすごいなぁと思いました。しかも上手くまとめてあるし。すごいです。 あ、謎の女性の正体は勇者さんの剣かなと思ってみたり♪ ではでは次回作も期待してます! |
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No.3 空 評価:100点 ■2005-01-08 17:23:36 ID:ldB5jEfqq82 | |||||
はわわーっ!グラーヌス〜〜!!カイマート〜〜!!(愛 あぁぁ〜、すごく素敵です!! うぅ……謎の女性はわかりませんです(涙 おぉ!?関係かくんッスか〜!?楽しみッス♪ 全員が出てるのがまた素敵!!あぁ、この二人ってアサッリ甘甘ッスよね〜vv(ぇえ/何それ この二人の話は、シノのどの話を読んでも、綺麗で純粋だと思ってます。 何かあっても、もし過去が暗くても純粋だとしか思えないッスよ。 「恋人」というだけの響きでは、安っぽすぎて、良い言葉が見つかりません。 それだけ、本当に深いんだろうなぁ…って、この二人を見るとどうしても涙が出るんッスよ。 今回のは特にグッときました。ラグナロクをたいして知らない空にでも、こんな風に感動させてくれるシノの文章って、やっぱり凄いんだなーって思ったッス。 あぁ、長々とかたってゴメンネ!訳の分からない、感想を…;; ……失礼しましたー!!(逃っ/ォィ! |
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No.2 リュウ 評価:50点 ■2005-01-05 14:52:40 ID:tjAemY01kIY | |||||
カイマート・・・・誰だったか・・・・・ああ、そうか。 なんかしみじみと見てました。心が和みます。 そういえばしのさんの小説には詩がよく出てきますよね? これは何のやつですか? お正月も書いてくれるのかな? |
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No.1 ツバメ 評価:50点 ■2005-01-05 13:11:11 ID:0DsK8s8sMC6 | |||||
う〜む。ラグナスとウィッチのところで、謎の人物がいるけど、いったい誰なんだろうか? それが一番気になるな・・・ 彼らの関係が最も気になるのでがんばってください。 |
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総レス数 5 合計 400点 |
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