IF I… |
もし… 私の中に『彼女』が居るというのなら 『彼女』が目覚めた時 この『私』は 何処へ行くのだろう…? IF I … 「…此処は…?」 そこは暗い迷宮だった。光など殆ど無いと言っていいはずなのに、壁が妙に 黒っぽく浮かびあがり、なんだか冷たい…寒い感じがする。 身体がだるい…。周りの空気から圧迫感…?…なんだかそういうものを感じる。 しかもソレはかなり強い物で、意識をしっかり持っていなくてはこの空間に“消されて” しまいそうなほどだ。 迷宮はとても曖昧な物…。有る様で無い様な…無い様で有る様な…。 この感覚…知っている…。いや…似ているだけ? 以前私が閉じこもっていた世界…「時空の狭間」に良く似ている。 何故…こんな所に私は立っているのだろうか…? こんな所…来たくない…のに…。 「…Dシェゾ…?」 なんだか寂しくて…、凄く寒くて…大切な人の名を呼ぶ。 返事は…無い。 何処へ…行ってしまったの…? 迷宮の中をあても無く彷徨う。君を探して。 ただ、君を見つけたくて、私を見つけて欲しくて。 まるで迷子の様に君を求めて…。 幾つの扉を開いただろうか?幾つの魔方陣を使っただろうか? やがて私がたどり着いたのは長い通路…。 壁の小さな穴から光が漏れ、ソレが帯状に通路の奥へと続いている。 その光に導かれるように私は前へ進んだ。眩い光で私の影が大きく壁に映し出される。 途中には幾つかのクリスタルが置かれ、そこに行き着く度に光は反射、屈折され更に奥へと続く。 ―――…コツコツコツ……。 冷たい無機質な音…。自分の靴の音だけが辺りに反響し、私の耳に届く。 ―――コツコツ…コツ……。 やがて音が止み、自分の足が止まったことを知る。 目の前には薄暗い闇とその闇に溶け込むようにして消える光の筋…。その奥にはうっすらと壁が見える。 溜息が漏れた。出口…何処だろう…?ぼんやりと目の前の闇を見つめる。 一人…独り…孤独…。そんな言葉が頭を過ぎった。 「Dアルルっ!!」 名を呼ばれ、はっと振り返る。光を背に佇むは私と同じ格好の…私とは違う少女の姿。 「…アルル…?」 「もぉ〜…突然居なくなるから心配したじゃないかぁ〜っ」 「早く帰ろう?みんな待ってるよ」 小走りに近づいてくるアルルの姿に何となく安堵感を覚えた。独りじゃ…無い…? 伸ばされたアルルの手が私の手に触れる。 「…!!?」 「…Dアルル…?」 刹那に訪れた不吉な予感。触れた手を振り払い後方に飛び退くと、アルルは驚愕の表情を浮かべた。 それを前に私の唇から漏れたのは低い声。 「……違う…」 「え…?」 「…アルルじゃない…君は…誰!?」 キッと目の前の『アルル』を睨みつけると彼女は薄く笑む。アルルとは違う大人びた表情で。 「あれ?バレちゃった?…そう…ボクはアルルじゃないよ…」 「ドッペルゲンガー…ってヤツ…かな?」 ぱちんっと指を鳴らすと青かった服は色を塗り替えたようにたちまち紫色に変わる。 くすくすと笑う目の前の少女。ドッペルゲンガー?彼女が?彼女も…私と同じ…? 同じ…ドッペルゲンガー……? 「…ふっ…ふふふふ…あはははは…!」 「…何が可笑しいの?」 低く紡がれた彼女の声。ドッペルゲンガー?君が?笑わせないでよ…。 「…笑わせないでよ…―― …」 記憶の中に存在するその名を呼ぶ。 自覚はあった。私の中に三つの記憶が存在する事…。 一つは「私」としての記憶。 一つはまだ私が『アルル』だった時の…いや、まだアルルと『別れて』いなかった時代の記憶…。 そして…もう一つは……遥か遠い過去、『彼女』の記憶……。 その記憶は混沌としていて、とても曖昧な物で…まどろみの中に見る夢のような物…。 はっきりとは思い出せないけど、“イメージ”として浮かぶモノ…。 ソレが告げていた。彼女はドッペルゲンガーなどという曖昧な存在では無い事を。 何故それが私の中に存在しているのかは解らないけれど…。 その『記憶』のお陰で今、普通に生活し、魔導の力も操る事が出来るのだから悪くはないと思っていた。 彼女は一瞬の驚いた表情の後、「へぇ〜…」と感心したように目を細める。 「貴方はあの子とは違うようだね…?」 「……もう一度訊くよ…?君は…『誰』?」 あの子というのは恐らくアルルの事。彼女の問いには答えず、私はもう一度問う。 その問に彼女は少し不思議そうに首を傾げた。不敵に微笑みながら。 「誰?それは貴方が良く知っている事じゃないの?」 「…それはどういう…」 「貴方の中にソレに該当する語彙はあるかな…?」 私の言葉を無視してふふっと笑い、彼女は言葉を続ける。 「…霊…魂…命……形而下では捉えられない巡り行くモノ…」 「…器…殻……一時で壊れてしまう脆く儚いモノ…」 「光…闇…無…全てを形作るのに不可欠な、異なる様で同じモノ…」 「…そして…」 「私は……」 ―――私は貴方…。 「…!!?……何を…馬鹿な…」 動揺を押し隠し冷静を装う。私が彼女な訳が無い。彼女が私の訳が無い…! 私は自分の意思で全てを決め、行動しているんだ!私の心は私のモノ…。彼女のモノではない! でも…何…?この胸のざわめきは……? 「馬鹿な?貴方の中にある記憶が何よりの証拠じゃないのかい?」 歩み寄る彼女の足音が嫌に鮮明に聞こえる。身体がまるで金縛りにでも遭った様に動かない。 「ねぇ、もう一度一つにならない?」 「……ひと…つ…?」 「そう…貴方が私になるんだ…嘗てそうだったように…」 …私が…君に…?何を…言っているんだい…?そんな事出来るわけが…。 彼女は薄く微笑みながら言葉を続ける。まるで私の想いなど「知った事か」とでも言うように…。 「簡単な事でしょ?貴方が私を受け入れればいい。記憶…想い…力…運命……全てを…ね…」 伸ばされた手。その手を取れば私は彼女になれる…? でも…そしたら…私は『私』では…無くなる…? 「………」 「そう…飽くまで私を拒む気なんだね…往生際が悪い…」 目を細め、一度伸ばした手を下ろすと彼女はくるりと踵を返す。 「まぁいい…何れ貴方は知るだろう…。自分がどういう存在で、何の為に生まれてきたのか…」 「…貴方は運命を受け入れざるをえなくなる…」 「…ちょ、ちょっと待……っ!」 私の…存在?何の為に生まれたか…?運命…?君はソレを知っているというの!? …まだ訊きたい事が…っ! 遠ざかりつつある足音。彼女を引きとめようと腕を伸ばす。私の手が彼女の手首を捉えようとした瞬間…。 ―――パリィィィン!! 「…あ…っ」 弾ける音と供に地に飛び散る破片…。その一つ一つに私が映る。 …鏡…? 瞬間、解らなくなった。頭が真っ白になって後退る。 私が彼女の中に居た…?彼女が私の中に居るの…? それとも……私が……? 力が抜けたように座り込む。怪しく光る無数の破片、私を映し『私』を否定する…? それから目を背けるように俯いて。 「……違う……」 違う!違う!違う!違う!! 私は私!私は彼女じゃない!彼女は私じゃない! 今迄経験した事、感じた物、知った想い…それらは全て私のモノ! 私が自分の心で、身体で、その全てで感じ得たもの!! だって…私には……。 でも、もし…私が彼女なら…? もし彼女の記憶が完全に目覚めたなら…? 今の私の心は何処へ行ってしまうの…? 私の想いは何処へ行ってしまうの…? 私は誰を愛するの…? いつも傍に居て、全てを与えてくれた彼ではなく…、あの堕天使を愛するようになるの…? 彼の事は忘れて……? そんなの…イヤだ!赦せない!赦したくない!! 私は彼を…こんなにも……。 彼を裏切る事なんて…できな…い! 「…D…シェゾ…っ!」 痛い。苦しい。 身体が、心が コワレソウナホドニ…。 周りの空気に押し潰されそう…。 全てが粉々に砕けてしまいそう。 嫌だ…消えたく…ない!! お願い…助けて…。 私を…救って…! Dシェゾ!! ―――『Dアルル!!』 気が付くと其処には哀しいくらいの紅と銀。 「…ぁ……D…シェ…?」 「…大丈夫か…?随分…魘されていた…」 心配そうに覗き込む紅。汗で纏わりつく服の感触。そっと頬に触れる手の…暖かさ…。 ……夢? 「…ごめん…ちょっと…嫌な夢を…見た…だけ…」 答えた声は情けなく小さい。 見た夢は、夢にしておくにはあまりにもリアルであまりにも恐ろしく。 そしてあまりにも…悲しかった…から…。 「…夢…?」 「うん…私が…私でなくなるような…そんな…夢…」 「…ねぇ、Dシェゾ…私は一体…『誰』…なんだろう…?」 一旦言葉を切りそう問うた。アルルの分身…?それとも…。 心が、夢と現実の狭間で揺れ動く。 「…変な事を訊くな…お前はお前だろう…?Dアルル…」 抱き起こされ、抱き寄せられる。痛いくらいに、苦しいくらいに強く強く抱き締められる。 だけど、それすらも“心地良い”と感じてしまう。 在り来たりの言葉。それでも強く心を打たれて。 君の言葉だから。君の声だから。 だから私はこんなにも安心できて…。 「……ありがとう…Dシェゾ…」 熱い想いが…止め処なく溢れた。 もし…私の中に『彼女』が居るなら… 『彼女』が目覚めた時 この『私』は何処へ行くのだろう…? ねぇ、もし『彼女』が目覚めて『私』が消えても 君はこうして離さずに抱きしめていて…? 『彼女』がどうあれ、この『私』は 何時でも君を 求めているから……。 |
華車 荵
2004年12月17日(金) 03時36分33秒 公開 ■この作品の著作権は華車 荵さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.3 空 評価:100点 ■2004-12-18 20:48:43 ID:RnwPq7N.zV. | |||||
にゃぁ!!評価の付間違いを!! 訂正訂正……;;(ォィ |
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No.2 空 評価:50点 ■2004-12-18 20:48:10 ID:RnwPq7N.zV. | |||||
Dアルルさんの不安が不思議な形で伝わってきました。 本当にどこに行ってしまうんだろう…。 まずいです;空の中のDアルルさんが誰なのか分からなくなってしまったっすよー!!(ォィ すごいです。小説を読んで、ここまで不思議な気持ちになったのは初めてっす……。 やっぱり、シノの文章力はすごいです……。 |
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No.1 リュウ 評価:100点 ■2004-12-16 21:20:22 ID:tjAemY01kIY | |||||
はい、難しすぎます(死ネ なぜにそんなムツカシイ言葉が・・・・・・ それ以前にすばらしいくらいの妄s・・・もといすばらしい文章力&構成力がありますね〜・・・・感心です。 シリアスいいですね〜^^ |
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総レス数 3 合計 250点 |
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