あの時


「ねぇ、シェゾ。どうしてあの時魔力奪わなかったの?」

「…あ?」

ふと紡がれた疑問。問い。読んでいた魔導書から目を離し、見下ろすと俺の膝に凭れ、
不思議そうに見上げる魔導師の卵。
一体何処からそんな疑問が生まれたのか…。

「だからぁ〜…出逢ったときだよ〜っ!」

「あ?あぁ…あれか…」

少しだけ怒った様に言うアルル。その一言でアルルが訊きたがってる事の意を理解する。
俺は嘗て、更なる力を手に入れる為にアルルをターゲットに認め、その多大な魔力を
奪おうと試みたことがあった。
初対面であるアルルに「お前が欲しい」とほざき、スリープを掛けた上に当時根城にしていた
ダンジョンの地下牢に閉じ込めたのだ(その所為で俺は変態のレッテルを貼られることに…)
多分、アルルが訊きたがっているのはその事なのだろう。

「うん、あの時に魔力奪ってたら苦労しなかったんじゃないの?」

突然思い出したような素朴な疑問。見上げたままもう一度問う。確かにアルルの言うとおりだろう。
あの時…スリープがかかっている間に魔力を頂いてしまえばジュゲムで吹っ飛ばされる事もカーバンクル
のビームを恐れる事も無く、楽にその強大な魔力を手に入れられた筈だ。
なのにソレをしなかった。…いや…出来なかった…か?

「…さぁな、んな昔のこたぁ忘れちまった…」

「むぅ〜…」

読みかけの魔導書に目を移すと、不服そうなアルルの声。
…嘘だ。あの時の事はちゃんと覚えている。それも鮮明に…。
ただ、あの時思った事。感じた事が未だに“理解”出来ないだけで…。


あの時俺は、強い魔力の波動に導かれるようにアルルに出逢い、その魔力を奪おうと力を振るった。
そこまでは良かった。魔力を奪うなどいつもやっている事だったし、この時も簡単に手に入るものだと
思っていた。だが…何故だろうか…?奪えなかった…。魔法により意識を失うアルルを目の前にして
何も出来なかった。
ただ、今迄感じたことのない『懐かしさ』のような物を感じ、気が付けばアルルを抱き上げ地下牢に
閉じ込めていた。
それどころか、牢に鍵をかけた俺は妙な安心感すら覚えていたのだからまた不思議なもので…。
しかしその油断がいけなかった。アルルはわざわざ召喚しておいた魔物をまんまと口車に乗せ(一体どんな方法で…?)
脱走を図り、あまつさえ俺を倒し逃げ出した。力の差は歴然だった筈なのに…勝てなかった…。
何故…?俺が闇でアルルが光だからか…?それが光と闇の『運命』だからか…。

だが、俺にはそんな事は関係なかった。ただアルルを逃がしたくなくて…。ただアルルを捕まえていたくて追い掛けた。
何度負けようとも…何度倒されようとも…追い掛けた。
それが魔力の為なのか、それとも別のものの為だったのかは解らなかったが…。
結果、俺はアルルを再び捕らえる事はできず、変態扱いされるわ関わりたくも無い「某魔王」と関わらなきゃならなくなるわ
それどころか折角助けに行ってやったというのにアルルにまで忘れ去られるは……はぁ…。
まぁ…だがそれで良かったのかもしれないと今は思う…。
あの時感じたモノは未だに理解出来ないが…。


何故なら…




「なんだ?拗ねたのか?」

「…だって、シェゾ本当の事言ってくれないんだもん…」

……バレてたか…。全く、コイツには何故こうも簡単に嘘がバレるのか…。
俺は読んでいた本を閉じて傍に置き、アルルを抱き上げ膝の上に乗せる。

「……いつか…教えてやる」

そう、いつか…俺があの時感じたものを理解できた時。
俺がお前に真実を伝えられるようになった時…。

だから…

「…機嫌直せ…」

ぎゅっと抱き締め頬に口付ける。くすぐったそうにくすくすと笑うアルル。
こんなにも近くに居る。こんなにも簡単に捕まえられる。
あの時、どんなに追い掛けようとも届かなかった少女がこんなにも近くに。
俺から逃げ出す様子も無く、俺を恐れる事も無く、不思議なくらいただ傍に…。
あの時魔力を奪えなかったから…。
あの時お前を捕まえられなかったから…。
だからこそ今この“時”が有るというのなら、それは俺が望んだ事だったのかもしれない……。

アルルが俺を見上げる。抱き締めた腕をきゅっと掴んで。頬をほんのりと紅く染めて微笑んで…。

「ねぇ、シェゾ、ボク君の事大好きだよ」




俺は今…こんなにも簡単にアルルを捕まえる事が出来るのだから……。

華車 荵
2004年12月06日(月) 14時36分13秒 公開
■この作品の著作権は華車 荵さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ナンデショウカ?コレハ…(笑
アルルと最初に出逢った時のシェゾの行動に疑問を抱いた私。
目当てが魔力だけなら何故奪わなかったのか…?(まぁ奪っちゃったらゲームが始まらn/げしっ)
ってな訳で(どういうわけだ)何か運命のようなものを感じたのだろうという結論にたどり着きましたv(ぉぃぉぃぉぃ
一目惚れって事は多分ない(飽くまで多分)と思うので、運命を感じたってことでv(えぇぇ
でも、一目惚れって設定も良いなぁ〜v(えぇぇ

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No.1  リュウ  評価:70点  ■2004-12-06 19:10:37  ID:tjAemY01kIY
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サイショのほうの設定知らないものですから。
小説の真・魔導物語しかしりませんからね〜・・・
いやいやそんなことが・・・・

シェゾってもともと奪う気なかっただけじゃ・・・
それかヤルキガナ(終了/エ

しかししのさんが書いてるのは結構奥が深いというかなんというか・・・
俺なんて思い浮かんだのをそのまま書くだけだし・・・(オイ
総レス数 1  合計 70

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