朝日が昇るその前に |
「…人魚姫という話を知っているか?」 「人魚姫…ですか?」 波の音が静かに響く。 突然の科白に、目の前を歩いていた少女は見事なまでに蒼くウェーブの掛かった髪を 揺らし振り返る。足元で煌く砂よりも白く露出度の高いドレスが潮風に揺れた。 月の光を受け輝く髪は海よりも深く…深く…。それは溢れんばかりの生命の色彩。 見つめる瞳は深い森よりも碧く…碧く…。それは燃ゆる強さの色彩。 それはまるで…人魚姫のようだと…。 「えぇ、知ってますわ…とても…可哀想なお話だと思います…」 微笑う。哀しげに…儚げに…。 人魚姫…。一人の人間を愛した為に苦しみ、傷付き。それでも尚、その者の幸せを願い ながら海の泡と化し消えて行った…儚い哀れな少女の物語…。 しかし…私は…。 「お前は人魚姫と王子…どちらが哀れだと思う…?」 「…人魚姫…だと思います。どんなに想っていても想いは届かず…。人魚に戻る事も無く 海の泡となってしまったのですから…」 躊躇いながらも答え、俯く彼女は人魚姫。強さと優しさと純粋さを兼ね備えた儚い少女。 「うむ…確かに人魚姫は哀れだ…。美しい声も鰭も犠牲にし、傷付きながらも王子の幸せを願い 海の泡となって消えていった…。しかし私は…王子も哀れだと思うのだ…。そして愚かだとも…」 遠く、水平線の真上に浮かぶ丸い月を見つめる。波に揺れる光が伸び、まるで道の様。それがあまりにも 神秘的で遠い物語の海に想いを馳せる。 少女が隣に並び不思議そうに見上げる気配がした。 「…王子は…人魚姫を愛していなかったと思うか…?」 「……え…?」 …そう…。私は王子は人魚姫を愛していたと思うのだ…。口が利けず、他の者達に無下にされながらも、 直向に、そして一生懸命に頑張り、どんなに辛くても、苦しくてもいつでも傍でその輝かしい笑顔を向け てくれた少女を。 「…王子は怖かったのではないだろうか…?」 「怖かった…ですか…?」 「うむ…人魚姫があまりにも自分とは違いすぎて…儚すぎて、自分と同じ世界に引き摺り込んでしまえば 人魚姫を壊してしまうのではないかと…不安だったのではなかろうか…?」 …この私の様に…。 それでも王子は人魚姫に傍に居て欲しかった…。だからこそ隣国の王女を妃に迎え、人魚姫を守ろうと したのではないだろうか…?国という…そして政治という過酷で残酷な世界から…。 「しかし、王子はあまりにも無知すぎたのだよ…。人魚姫が泡となって消える事など知らなかった…。これ からも…いつまでも自分の隣で優しく微笑んでいてくれると信じていたのだ…。 だから私は、王子は哀れで…そして愚かしいと思う…。」 「………」 哀れな王子よ…。自らの考えを過信しすぎ、想いを伝える事も無く、想いを知る事も無く、愛する者を失っ た愚かな王子…。彼女に永遠など有りはしない。お前が幾ら望んでも、どんなに胸を焦そうとも…、 彼女はその眩しい笑顔をいつまでもお前に向けてくれるとは限らない…。 気付いてからでは遅すぎるのだ。 「私は…そんな王子とは違う…」 「〜っ!?さ、サタン様…!?」 少女を見つめ揺れる蒼に優しく触れる。壊さぬ様に、傷付けぬ様に…。少女の白い頬が桃色に染まっていく。 それがあまりにも愛しくて、笑みが零れた。 今こそ伝えよう…。海より深く、それなのに淡いこの想いを…私の人魚姫…。 朝日が昇るその前に…。お前が泡となって消えてしまわぬように…。 「ルルーよ…私はお前が……」 |
華車 荵
2004年10月06日(水) 09時12分04秒 公開 ■この作品の著作権は華車 荵さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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No.4 革下愛梨 評価:100点 ■2007-04-14 21:04:26 ID:QGEMnbiYsLI | |||||
こんちわー♪こんなに良い小説を私は今迄知らなかったの!? 人魚・・・。良いですねえ!!(何) しかもサタン様の想い、届かず!!(笑) やっぱ、最後の台詞は良いですよvv誰でも思います!!! 容赦(?)無く100て〜〜〜〜〜ん!!!!!!!! 嗚呼っ、又一段とサタルルLOVEに・・・っvvv 有難う御座いましたあ!!! |
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No.3 空 評価:100点 ■2004-10-17 21:48:27 ID:ldB5jEfqq82 | |||||
これ良いッス〜!!最高!! お題にかなりあってる……wこんな素敵なものがあるなんて!! そうゆう風にとることもできるんだ〜って感激しましたよ〜!! サタルル、こうゆう終わり方もいいッスねw 邪魔されるんですか!!?そうゆうのもまた……! 充分楽しめましたし、空はシノの書く文章そのものが好きッス! 今回のは、言葉一つ一つが綺麗だったと思うッス!!! 重用させたい言葉なんかは、何回も形を変えて書くとgoodだと思うのですっw(あった場合ネ♪ では!!あんなややこしいお題に、こんな素敵な小説ありがとうございましたッス〜! |
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No.2 華車 荵 評価:0点 ■2004-10-13 03:06:04 ID:RlKmr4ZO082 | |||||
>聖(元リン) ありがと〜v ひゃ、百点っすか!?うわ…嬉すぎ〜vv(笑 いやぁ〜…私は紙じゃなくてPCにWordで書いてるよ(苦笑 流石に一発書きは無理(滅 これでも結構見直したんだけどね(苦笑 私が知りたいのは、「どう書けば面白いか」「どう書けばキャラの気持ちが伝わりやすいか」「どう書けば読み易い小説になるか」だよ。 書いてて思うんだけど、どうも話考えてる自分にしか理解できないような気がして…(苦笑 この小説で、疑問に思ったこととか解り辛かった事とか無かった? 自分では客観的に見るのって難しいからさ(苦笑 アドバイス…ねぇ…(汗 あとがきに「アドバイスくれ〜〜!」みたいな事書いてあったら気付いた事だったら言うかも…(ぇ 但しアドバイスになってるかどうかは不明…(駄目ジャン |
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No.1 リン 評価:50点 ■2004-10-06 17:26:46 ID:MZ/tUjlcirs | |||||
シノさん!サイコー! サタルルサイコー! 「〜私はお前が・・・。」で終わるのもなんだかナイスです! 評価は100点ですよぉ〜! アドバイス・・・ですか? あたしがアドバイスしてほしいです!(をぃ) そうですねぇ・・・一度紙にかいてなんども読み返して見るといいと思います・・・。自分の欠点がわかりますし、過去にどんな小説を書いたかもわかりますし・・・。めんどくさいですがね・・・。 |
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総レス数 4 合計 250点 |
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